自衛隊イラクへの派遣の閣議決定に関して
内閣総理大臣へ送付した手紙

以下は、イラクへの自衛隊派遣基本計画閣議決定を受けて、日本バプテスト同盟理事長が小泉純一郎内閣総理大臣に宛てて送付した手紙です。


内閣総理大臣 小泉純一郎殿

 わたしたちは130年の歴史を持つキリスト教プロテスタントの教派です。
 わたしたちのグループはアメリカ人宣教師の働きによって生まれ、その後もアメリカの教会の人的・財的支援を受けながら歩んできました。したがって、わたしたちはアメリカに対して親近感を持っているものです。しかし、そのわたしたちも現在のブッシュ政権の諸政策に対しては支持を表明することはできません。このたび、ブッシュ大統領のイラク政策に沿う形で日本の自衛隊派遣の閣議決定が行なわれました。そのことについて意見を表明いたします。

 小泉首相、あなたがこのたびの決断に際し、決していい加減な判断をなさったとは考えていません。立場上知りうるあらゆる情報をもとに、そして政治的・経済的なさまざまな要因をかんがみて、熟慮の上の決断をなさったであろうことは重々承知しております。しかしその上でなお、わたしたちは今回の自衛隊派遣については以下の理由から反対せざるを得ません。

1)今回の自衛隊派遣は日本国憲法に反しています。
 あなたは今回の派遣は憲法の前文の精神に基づいていると言われます。しかし、憲法の前文は、諸条文の内容を総括するものであり、諸条文は前文の精神を具体的に反映するものです。したがって、前文と9条とは不可分です。
 どうしても自衛隊を派遣するのであれば、憲法を改正してからでなければなりません。世界に誇る平和憲法を改正し、日本は侵略戦争を含む戦争ができる国なのだという法的手続きを行なってからにしてください。
今回の派遣に日本の世論の7割が反対しているということは、現憲法下では国民の理解は得られていないということです。あなたはブッシュ大統領の友人である前に、日本国民を代表する首相であることを再確認してください。現状での自衛隊派遣について国民の理解を得るということは、大多数の国民が、日本が軍隊を持ちいつでも戦争ができるという趣旨の憲法に同意したときに初めて起こりうることです。
今、自衛隊を派遣することは明らかな戦闘行為であり憲法違反です。先の外交官殺害事件が明確に物語っていますが、今のイラクに安全な所などはありません。もし自衛隊がイラクに行けば、むしろ自衛隊の行くところが危険な所になり、自衛隊の駐屯するところが戦闘地域になるのです。また、現状ではイラクに自衛隊が出かけていくこと自体が戦闘行為とみなされるのですから、イラクで攻撃を受けた場合に武力を行使するというのは決して自衛のための手段ではありません。

2)今回の自衛隊派遣は人道支援にはなりません。
 どうしても、自衛隊を派遣するとしたら、あくまでも人道支援が目的でなければなりません。しかし、どんなにわが国が「人道支援のためだ」と主張しても、現状で自衛隊を派遣することは、イラクの人々にとってはアメリカの占領政策と一体のものとみなされます。物事を判断するときに大切なのは、自分がどう考えるかだけではなく、相手がそれをどのように受け止めるかを謙虚に考えることです。相手の思いを無視して自分の考えを一方的に正しいこととして押し付けることは、傲慢以外のなにものでもありません。そして現状で自衛隊を派遣することは、どんなに説明を尽くしても、イラクの一般の人々から「人道支援」であるという理解を得ることはきわめて困難です。したがってイラクの人々の気持ちを無視する今回の派遣は日本の意図がどうであれ、人道支援にはならないと思うのです。自衛隊員の方々も平和に貢献したいというお気持ちを持っておられるはずです。しかし、現状ではその気持ちが生かされないのではないでしょうか。

 以上の理由によって現状での自衛隊派遣を取りやめていただきたいと心から願います。もちろん、日本が国際社会の一員として何もしなくてもよいというのではありません。日本の国際貢献は、他の方法によって十分果たすことができると思います。リンカーンは「腕力はすべてを征服するが、その勝者は短命である」と語りました。日本はこれまで中東の国々と良好な関係を築いてきました。それゆえ今後日本だけの、日本ならではの「出番」が必ず来るはずです。日本の出番が短命にならないために、日本独自の発言権を失わないために、自衛隊派遣を取りやめてください。
まだ間に合います。閣議決定を白紙撤回なさるか、それが無理であるなら、事実上凍結していただきたいと思います。自衛隊を派遣しないことで、一時的に一部の友人の反感を買うかもしれません。しかし、自衛隊を派遣することによって多くの友人を失い、友情を回復することの困難さを考えると、どちらが日本の国益であるかは疑問の余地がないと思います。
小泉さん、わたしたちも日本を愛する国民の一人一人です。日本を愛するがゆえに、あえてあなたにご意見を申し述べさせていただきました。あなたと閣僚お一人お一人の上に神様の導きと知恵が与えられることをお祈りいたします。
 
 2003年12月16日
 

日本バプテスト同盟 理事長 天野邦彦


HOME


© 2002 Japan Baptist Union